Vol.6 SKY-08~Episode 25~

その雲の世界を満喫したら、僕は下山を始めた。
出来れば今日中にこの島を出たい。
でなければさらに1日ここで泊まらないといけなくなり時間のロスとなるからだ。

登りでは2時間半かかったが、山を下る時は、傾斜にまかせて力を抜くと走ることができたので、
2時間で下ることが出来た。
(スノボでいうコノハすべりのようにジグザグに降りていくと、走れる。←よい子はマネしないように。)
行きしなに寄った店のおばちゃんも
「やっぱり若いから戻ってくるのも早いね」
と、驚いていた。
自転車は盗まれることなく、全く同じ状態でキャンプ場にあった。
僕はほっとして、港にへ向かった。

稚内行きの最終便にはなんなく間に合った。

チケットを買って最初に入船できるのが大型車とその運転手、次に乗用車、その次はバイク、自転車となって、
運転手ではない一般乗船者の入船はその後で、最後のとなる。

てな訳で、自転車と一緒に入船した僕は、優越感に浸りながら、まだ入船できない一般乗船者たちを
看板から見下ろしていた。
(↑嫌な奴。)
多分、一般乗船者たちは
「何だあいつ」
と、白い目で僕を見てたに違いない。
(勝手に写真撮ったし)

出港間際になって、ようやく、一般乗船者の方々が入船してきた。

僕は甲板で、カモメの姿を探した。
また、餌でもやろうかと思ったのだ。
しかし、そこには白く美しいカモメの姿はなく、代わりに黒いカモメの姿があった。
そのカモメは大きな声で
「カア、カア」と鳴いていた。
僕は、つい、隣にいたオジサンに「かわいくないですね」と言った。
「カラスはなあ…」とその人が関西弁で答えた。
動物差別するつもりではないが、カラスとカモメを比べるとやはり、
カモメの方が色白で目もキリッとしていて、
鳴き声も上品に感じられた。

しばらくして船は動きだした。


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礼文島を出るときのように僕を見送ってくれる人は誰もいない。
巨大な利尻富士が徐々に遠ざかっていく。
まるで海に浮かぶ巨大な山、
そのシルエットは雄大で力強かった。


稚内から数10km離れた場所に浮かんだ離れ島、
利尻と礼文。
二つ仲良く並んだ島。
夕日が沈んでも、僕はその二つの島を見続けた。

稚内に着いたら、辺りはもう暗くなっていた。

港にはなんとも不思議なムードを持った場所が見えたので行ってみた。
そこは、北防波堤ドームといって、全長427mのアーチ回廊だった。

その後キャンプ場へ向かった。
そこのキャンプ場は、4日前にも泊まった、森林公園キャンプ場だ。

僕はテントを張り、これまた4日前にも行った稚内温泉へ出かけた。
4日前はその温泉でパンを販売していたので買ったが、今日はその販売はしていなかった。
風呂上りにちょっと楽しみにしていたのに、残念だった。

僕はさっぱりしてキャンプ場へ戻ろうとした時、
その道の途中で辺りがやたら涼しくなっていることに気がついた。

コオロギが鳴いていた。
「もう秋だな」と感じた。

たかが4日なのに、僕には何もかもが4日前とは違って見えた。
そう、最北端へ来て、また最終の目的地へ着き
そしてこれから礼文島へと向かおうとしてた4日前とは。

秋を感じさせるこのコオロギの声は、あまりにも寂しく響いた。

キャンプ場へ戻った僕は寝る準備をする頃になってもその寂しさが消えなかった。
いろんな思いが頭をよぎった。

「あとは札幌に行って帰るだけか…。」
「(礼文島で会った)あの人はもう旅を終えて、札幌へ帰ったのだろうか…。」

そこで思った。

「俺が、札幌へ着くころ、あの人も札幌にいるはずだ。」
あの人の連絡先は聞いてある。

僕に新たな目的が生まれた。

「もう一度、あの人に会えるかも」

あの人に会うために札幌へ行く。
そう思うことで、この旅が終わってしまうことなんか忘れることができた。

僕は急に元気になって眠りに着いた。

朝、キャンプ場をあとにした僕は自転車に乗った。


右側にはまだ利尻富士が見えた。


それはまるで僕を見守るかのようだった。

NORTH TOURING’96
Vol.6 SKY
~空~

Vol.6 SKY-08 Episode 25