Vol.5 TOP-02~Episode 19~

8月20日。いよいよ8月も末に入った。

今日は知床峠を登らないといけないために早起きした。
知床峠とは羅臼岳という有名な山にある峠のことだ。

早めに朝食をとった僕は出発した。
昨日ここまで来た道は県道ならぬ道道を走って来たのだが、その道をいちいちUターンしていたら遠回りになるので僕は近道をしようと試みた。

…しかしすぐさま道に迷ってしまい、自転車を降りて地図を開いた。

「いきなりかよ、まったく…。」

と思いながら道路の隅に座って地図に集中していた。
すると…、地図を持っていない方の手に何やらぬれた冷たいモノがピタッとひっついたことに気がついた。

「!?」

僕はギョッとした。
何だ?と思ってみてみると、小太りで少し小さめのオッサンみたいな顔をした犬がいつのまにか僕の真横に立っていて僕の手をクンクンしているではないか!

僕は一瞬ビクッとしたが(それを見た犬の方もビクッとしていたが)すぐにおさまった。

「なんや、びっくりさせんなよ。」

そのオッサンみたいな犬は無表情の無言でしかも足音さえ無音だった。
僕は無を極めたそのオッサン犬に別れを告げると近道をあきらめて素直にUターンして国道に出た。

なんとか午前中に知床峠のふもとまでたどり着かないと今日の目的地である知床野営場(キャンプ場)に着くことはできない。
僕は急ぎ足で自転車をこいだ。


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海沿いの道、国道335号線を北に走った。
多少のアップダウンの道が僕を少し苦しめた。

小さな坂を上りきった時、向かい車線の遠くに女の子らしきチャリダーを発見した。
ひさびさに会うチャリダーに僕は手を振ると、その子は腕を頭の上までまっすぐ伸ばし大きく元気に振り返してくれた。

「なんかイイ感じの子やな…。」

すれ違った後でもなんとなくその女の子の生き生きとした表情と動作が思い出せた。

その後、知床峠に近づくにつれて辺りには食料を買えそうな店が見当たらなくなってきていることに気がついた。
僕は不安になり、次に見つけたコンビニに寄ることにした。
ちょうどそのコンビニの辺りで休憩していたチャリダーにそのことを聞いてみると、やはりそれ以降の道ではもうほとんど店はないとのことだった。

僕はある程度の食料を用意してまた走った。
そして知床峠のふもとに着いたのはちょうど昼くらいだった。
なんとか予定通りに最初の目的地に着けたので川のほとりでゆっくり弁当を食べることにした。

「さて、いよいよ山越えか。」

と昼食を食べ終わった僕は自転車に乗った。

三国峠を越えて以来ほとんど山越えという山越えはなく今回久々であり、またこれを最後にしてもう1000m級の山越えはこれより先の道にはないので、この旅最後の山道の苦しみとその達成感をここで思う存分楽しもうと思い、僕は気合いを入れた。

山を登り始めるとこれまたひさびさの快晴のせいで暑くなった。

Vol.5 TOP-02 Episode 19